焼酎と一括りにしてもその個性は様々です。
香りだけとってもバナナやメロンのようなフルーティな香り、柑橘系の香りをはじめ、芋の匂い、花の匂いなどに例えられます。口当たりや、キレ、コク、余韻、焼酎にはその他様々な個性があります。もちろんこの個性を好きな人もいれば嫌いな人もいて、人気や売り上げなどに左右されるわけなのですが、 酒蔵はいいお酒を作るために毎回試行錯誤して商品開発を行っています。
しかし、毎回通常の仕込みと変わらない量を仕込んで焼酎を造る場合、経費も人手もかかってしまうので、商品開発と言っても手軽にできるものではありません。では焼酎の商品開発はどう行われているのでしょうか?
「キャリア○年、勘を信じて開発します。」という酒蔵もあれば、以前ご紹介した食品開発センターのような設備がある施設で、少しまとまった量のお酒を試作している蔵もあります。蔵によって開発方法は様々です。
焼酎の商品開発を行う上での手順
「払出し→製麴→1次仕込み→2次仕込み→蒸留」の工程を経て焼酎は製造されます。
上でも説明しましたが、大規模に作る場合それはすでに商品開発ではなく、製造になってしまいます。では弊社の商品開発方法について通常の仕込み方法と比較しながら説明させていただきます。
※もちろん酒蔵によってその方法は異なると思いますのであくまで1例としてお読みください。
払出し(商品開発)
麹となるお米を蒸しあげていきます。
- 通常仕込みの場合
写真:弊社ドラム式製麴装置
- 商品開発の場合
写真:蒸し機
麹となる米を蒸しあげる場合、弊社ではドラム式製麴装置のような大きな装置ではなく、様々なものを蒸す際に使われるいわゆる、せいろ、蒸し器を使用します。お米を炊き上げるんだから炊飯器でもいいのでは?と思われるかもしれません、しかし炊飯器は大前提としてご飯を美味しく食べるための家電製品であって、麹を作るための機械ではありません。炊飯器ではお米の蒸し加減、温度の調整をすることが困難なため、麹米を作る機会として適したものではありません。 温度や水分の調整もできる点では、蒸し器の方が使い勝手がいい のです。
製麴(商品開発)
炊き上がった米に種麹を混ぜ、寝かせます。
- 通常仕込みの場合
写真:通風製麴装置(三角棚)
- 商品開発の場合
写真:恒温機(インキュベーター)
弊社の三角棚は、縦幅290cm、横幅180cmあります。三角棚は温度・湿度を保つ環境を作るための場所であり、商品開発でもそう言った環境が求められます。 安定した温度湿度制御ができる恒温機は、商品開発規模の製麴を行う環境としては申し分ありません。 温度湿度を一定に保ちながら、定期的に米を混ぜることで麹を作っていきます。
1次仕込み・2次仕込み(商品開発)
出来上がった麹に酵母を入れ1次もろみを製造、1次もろみに原料を入れ2次もろみを製造します。
・通常仕込みの場合
写真:1次仕込み用甕壺・2次仕込み用ステンレスタンク
・商品開発の場合
写真:ワンカップ
商品開発に用いる上で、三角棚で作られた麹に酵母と水を混ぜ1次もろみを製造、1次仕込みで作られた1次もろみに原料を混ぜて2次もろみを製造します。商品開発の場合は非常に簡素化しておりワンカップくらいの小さな容器にて温度を調整しながら発酵を行います。写真はワンカップに入っている黒麹を使った1次もろみ(右)と2次もろみ(左)です。
蒸留(商品開発)
出来上がったもろみを蒸留します。
- 通常仕込みの場合
写真:蒸留機
- 商品開発の場合
写真:弊社試留器
商品開発において蒸留の役割を担うのは試留器です。簡易的ですが蒸留を行うことができます。
焼酎の商品開発を自社で行うメリットデメリットについて
弊社の商品開発方法を説明しましたが、一概にこの方法がいいというわけではありません。当然メリットデメリットがあります。
メリット
-
人手が少なくて済む
-
材料費が少なくて済む
-
失敗してもいいので思いきった焼酎を作れる
デメリット
- 作り上げたレシピは絶対ではない
「作り上げた設計図は絶対ではない」のです。実際に出来上がった焼酎を元にいざ商品開発を行い、そのレシピ通りに商品化しようとしても、原料の量や、蒸留の期間、芋の状態、微々たる環境の変化で、同じ味を再現することは簡単なことではありません。大まかな味の方向性は示すことができても、同じ比率で同じ温度で製造しても同じ焼酎が製造されることはありません。しかし、それが焼酎の手のつけられないところであり、魅力でもあり、愛すべき部分だと感じています。